kisakishoesの日記

注文靴と靴教室 キサキシューズ

手作り、って?



暖かくなったと思ったら、また冬に逆戻りだったりの季節。
工房でのマイ作業ポジションが部屋のはじの窓際にあるため、
寒い日はゾクゾクと背中から冷気がやって来ます。
そんな日は大昔の手編みセーターを着て、工房に向かいます。

一体何年前のことか、毎年冬になると祖母や母がどんなデザインがいいか聞いてくれて
手編みのセーターを編んでくれていました。今着ると形はさすがに古めかしいけど、
捨てれないまま何枚も溜まった手編みのセーター。しかしこれがなによりあったかい!
いま流行りのざっくりニットなんてものとはほど遠い、
笑ってしまうほど編み目きつきつなセーター。

話は変わりますが、先日ある方が履いている靴を指して、
「これ、買う時に `職人手作り` って書いてあったけど、そんな訳ないですよね?1万2000円だったから、、、」
と聞かれて、返答に困りました。
手作り、ってなんなのか?
どんな既成靴だって工場生産だって、
どこかで必ず人の手が介入しているはずですので、
手作りと言えば手作りの部分もある訳で。。。
作業しながらそんな事を思い出して考えていました。

靴には様々な製法がありますが、例えば注文靴をお受けする際に、
私が必ずしたい事のひとつにアッパーは手作業でインソールに縫い付ける、というのがあります。
まず縫い付ける為の糸は、始めから撚られて売っているものより
自分で撚り合わせたものの方が強いから糸を自分で作ります。
そして機械で縫うより、手でひと針ひと針縫い付ける方が、
強いテンションで木型に吸い付くから自分で縫います。
なぜ強いテンションで木型に縫い付けたいかというと、木型を足に合わせて作ったから。

靴を購入する際に誰でも一度は言われた事のある、「そのうち伸びますよ」
は、木型を足に合わせて作っている場合、「伸びたら困ります」になります。
だから、整形する際も、革の伸びを確かめながら「これ以上引けない」という所まで
片足ずつ手で木型につり込んで行きます。
だからいい革を使わないと耐久性が追いつかなくなる。
革も色々ありますが、同じ銘柄の革だとしても、元の牛は違うので1枚ずつ見せてもらって
一番いい状態のものを選んで分けてもらいますので、
革屋さんに行く時はいつも気合いを入れて「いざ!出陣!」な気分です。
だから、材料もネットショッピングのように機械的に仕入れる事は出来ません。

その他の工程でも、手作りでなければ出来ないから手で作っている、という事が
連なっているから 結果的に手作り靴 になる訳で、
手作りという謳い文句が素敵だから、という理由ではないのです。

イギリスの注文靴の伝統的な製法である ハンドソーンウェルテッド は
全行程を合わせると200近くになるとも言われており、
それらの全ての工程には次の工程に繋がる理由が含まれています。
いくら学んでも学び足りないほどの手作業の世界がそこにはあります。
でもその技術が履く人の心地よさや楽しさに繋がらなかったら
ただのうんちくで終わってしまう。
手作りの意味は、それに尽きると思います。

ハンドソーンウェルト以外の製法で作ったとしても
それが注文靴である限りは同じ事で、
実際kisakishoesの注文靴の全てが ハンドソーンウェルト製法なわけでもありません。
近所のコンビ二に行くのに、わざわざ靴ひもを締めて革底靴を履く人はいない訳で、
海に行くのに高級革を使った靴を履く人もいない。
靴はライフスタイルと結びついていて、履く人の生活と密着しているもの。
ゴム底靴だって作りたい!と思うのも自然な流れだと思います。

でも、
「知っていて選択しない」のと、「そもそも知らない」の間には
大きな違いがある。
一生靴を履かないという選択肢はないのだから、
せっかく人生の長い時間を共にする靴について、
足を犠牲にすることなく、もっと沢山の選択肢があることを、深い世界があることを
より多くの方に知っていただけたらな、と思っています。
選ぶ楽しみは、豊かさに繋がると思います。

そして、履かないという選択肢がないという意味では
人生において食べないという選択肢がないことと同じようなもの。
おうちでご飯を作るように、「手前味噌」を作るように、
「手前靴」をみんなが作れるようになったら素敵だな。。。
とも夢見ています。

「手作りって書いてあったから。。。」ってどこかの誰かの手を思わなくても、
目の前には自分の手がある!
その無限の可能性を、私自身ももっともっともっと探って行きたい。
そして、一緒に探って行こうじゃないか!という方、ぜひぜひお教室でお待ちしております!

既成靴の修正も始めていこうと思っています。
ちょっとしたことで今まで我慢して履いていた靴で歩くのが快適に変わるのではないか?
もっと靴について興味の幅が広がって行くお手伝いが出来れば、、、、
と思っております。
詳細はまた今後ご報告いたします。

明日はまた雪みたいですね。
この寒さでは当然、他の選択肢なし。
手編みセーター、です。。。。


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